サッカー観戦が好きな理学療法士が、「なぜサッカー選手はハムストリングの肉離れが多いのか」を、UEFAの調査などの文献と臨床の視点で整理しました。
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ハムストリング損傷はサッカーで非常に多いケガ
UEFAのエリートクラブ傷害調査では、2001/02〜2021/22シーズンの21年間に、欧州20か国54チーム・3,909人の選手が対象になりました。その期間に報告されたハムストリング損傷は2,636件で、全傷害の19%を占めています。
さらに、全傷害に占める割合は2001/02シーズンの12%から、2021/22シーズンには24%まで増えました。近年のプロサッカーでは、4件に1件近くがハムストリング損傷というシーズンもあります。
ハムストリングとはどんな筋肉か
太ももの裏側にある筋肉の総称で、大腿二頭筋・半腱様筋・半膜様筋の3つで構成されます。膝を曲げる、股関節を伸ばすといった働きがあり、走る・跳ぶ・方向転換するといった動作で重要です。
ただし「たくさん使うから痛める」という単純な話ではありません。どんな動きで、どれくらいの負荷がかかるかが重要です。
一番分かりやすいのはダッシュ
スプリント中のハムストリングは、脚を前に振り出すだけではありません。振り出した脚が地面に着く直前、脚の動きをコントロールするために、筋肉が伸ばされながら力を発揮する「遠心性収縮」で大きな負荷がかかります。
スプリント中の力学を調べた研究では、特に走行終盤の遊脚後期(late swing phase)で、ハムストリングの筋・腱が大きな伸張や力を受けることが示されています。サッカーはこのダッシュや急加速を試合中に何度も繰り返します。
ダッシュだけでは説明できない
一方で、テレビで一つの動きを見ただけで「この選手は痛める」と判断することはできません。2023年に発表された、プロサッカー選手のハムストリング損傷14件の動画分析では、損傷メカニズムは次のように分かれていました。
- 混合型:43%
- ストレッチ型:36%
- スプリント型:21%
損傷時の動作は、方向転換29%、キック29%、ランニング21%が多く、71%は高いまたは非常に高い水平速度で起きていました。ダッシュだけでなく、減速・方向転換・キックなど複数の場面で起こることが分かります。
疲労と過去の損傷歴
筆者は、疲労も重要な要素だと考えています。試合ではダッシュ、急加速、減速、方向転換を何度も繰り返し、試合が進めば疲労が蓄積します。週に3試合こなす選手は、シーズン終盤にはかなり消耗した状態になります。ただし、疲労が溜まれば必ず肉離れになるとまでは言えません。
成人男性サッカー選手を対象にした前向き研究のシステマティックレビューでは、過去のハムストリング損傷歴が最も強く関連するリスク因子として示されています。
予防で大切なのは「柔らかさ」より「負荷に耐える力」
予防としては、ノルディックハムストリングエクササイズ(NHE)などの筋力強化や、FIFA 11+のようなウォーミングアッププログラムが研究されています。NHEを含む予防プログラムでは、傷害発生率が約51%減少したと報告されています(損傷発生率比0.490)。
強調したいのは、「柔らかくしておけばいい」ではなく、「大きな負荷に耐えられる身体を作っておく」という考え方です。筋力・安定性・バランストレーニングなどを含む予防プログラムが、損傷の減少と関連していました。
筆者の考え(エビデンスはありません)
ここからは筆者個人の感想です。試合前にハムストリングを長時間強く伸ばすより、身体を徐々に動かして温めていく方がよいと考えています。また、プレミアリーグのような強度の高いリーグは、Jリーグと比べて選手が試合中に水分を摂る回数が少ないように感じます。水分が不足して筋肉が攣縮を起こしやすい状態でダッシュや急加速をすると、ハムストリングが瞬間的に伸ばされて損傷につながるのでは、と考えています。
部活・草サッカーのセルフケアに
サポーターなどの用品は、あくまで補助です。痛みが強い、再発を繰り返す場合は、整形外科やリハビリのある医療機関で相談してください。
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まとめ
- ハムストリング損傷はUEFA調査で全傷害の19%、2021/22シーズンは24%
- ダッシュ時の遠心性収縮が大きな負荷になるが、ダッシュだけでは説明できない
- 過去の損傷歴が最も強いリスク因子
- 予防は「柔らかさ」より「負荷に耐える力」
理学療法士として、サッカーを身体の視点で観ると、ゴールやパスとは別の面白さがあります。
参考文献
Ekstrand J, et al. Hamstring injury rates have increased during recent seasons and now constitute 24% of all injuries in men’s professional football: the UEFA Elite Club Injury Study from 2001/02 to 2021/22. Br J Sports Med. 2023;57(5):292-298.
※数値は元論文・各機関の公表内容に基づく一般情報です。最新の情報は原典でご確認ください。
