
高齢者って、家のどこで一番転ぶんですか?



データでは階段が最多ですが、大事なのは「なぜそこで転ぶのか」です。理学療法士の視点で解説します。
「高齢者が家の中で転ぶ」と聞くと、どこを思い浮かべますか?浴室、階段、玄関……。
なんとなく危険な場所は想像できますよね。
ただ、実際のデータを見ると、「なぜそこで転ぶのか」まで考えないと、本当の転倒予防にはつながりません。
消費者庁が65歳以上の800人を対象に行った調査では、過去5年間に自宅で「けがをした・けがをしそうになった」経験があった場所として、階段が72人(9.0%)で最も多く、次いで風呂場・脱衣所・洗面所・トイレが48人(6.0%)、庭・ベランダ・駐車場が45人(5.6%)でした。
この調査は「転倒した場所」だけを集計したものではなく、「けがをした・けがをしそうになった経験」の場所です。
複数回答なので、割合を合計して100%になるものでもありません。
| 場所 | 人数 | 割合 |
|---|---|---|
| 階段 | 72人 | 9.0% |
| 風呂場・脱衣所・洗面所・トイレ | 48人 | 6.0% |
| 庭・ベランダ・駐車場 | 45人 | 5.6% |
| 食堂・台所 | 39人 | 4.9% |
| 居間 | 29人 | 3.6% |
| 廊下 | 11人 | 1.4% |
| 玄関・勝手口 | 11人 | 1.4% |
一方、消費者庁が医療機関ネットワークの情報をもとにまとめた別の調査では、65歳以上の自宅での転倒事故275件のうち、8割以上が通院または入院を必要とするけがにつながっていました。
転倒は「ちょっと転んだだけ」で済むとは限りません。
骨折などをきっかけに、それまでできていた生活動作が難しくなることもあります。
「大腿骨を骨折→寝たきりになる」。
これは典型的なパターンの1つです。
では、実際にどこが危ないのでしょうか。
この記事では、データに出てくる場所を中心に、
理学療法士なら「その場所で、身体がどう動いているか」をどう見るのかまで解説します。
- データ上、最も多かったのは階段(9.0%)
- 場所だけでなく「その場所で身体がどう動いているか」を見る
- 転倒の原因は「環境×身体機能×動作」で考える
- 何もない場所でも転ぶ。「危険な場所を覚える」だけでは不十分
1.階段
データ上、最も多かったのが階段です。
65歳以上800人の調査では、72人が階段で「けがをした・けがをしそうになった」と回答しており、全体の9.0%でした。
階段が危険なのは、単純に「段差があるから」ではありません。
- 片脚で身体を支える
- 足を持ち上げる
- 一段上に足を正確に置く
- 身体のバランスを保つ
特に理学療法士が気にするのは、「足を一段上に十分持ち上げられているか」です。
以前より、階段を上るときに足が引っかかる、手すりに強く頼るようになった、
一段ずつしか上れなくなった、という変化があれば、身体機能が変化している可能性があります。
さらに階段は上るときよりも降りるときに、より力が必要になります。
階段そのものだけでなく、階段を上る・降りる身体の状態を見る。
これが転倒予防では重要です。
2.風呂場・脱衣所・洗面所・トイレ
このグループでは48人、800人中6.0%でした。
水回りは、床が濡れている、滑りやすい、脱衣時にバランスを崩す、
浴槽をまたぐ、立ち座りがある、など、転倒につながる動作が重なります。
特に浴槽をまたぐ動作は要注意です。
片脚で身体を支えながら、もう一方の足を持ち上げる必要があるためです。
つまり、「足を上げる能力」+「片脚でバランスを取る能力」が必要になります。
「浴室だから危険」と考えるだけでなく、本人が浴槽をまたぐときに、
足が十分に上がっているか、身体が左右にふらついていないかを見てみてください。
3.庭・ベランダ・駐車場
45人、800人中5.6%でした。
屋外には、地面の凹凸、小石、段差、傾斜、濡れた場所、暗い時間帯などがあります。
ここで重要なのが、屋内と屋外では歩く環境が違うということです。
平らな床では問題なく歩けても、砂利や芝生、傾斜のある場所ではバランスを崩しやすくなることがあります。
理学療法士は、こうした「環境が変わったときに身体がどう対応できるか」も見ます。
庭に出ると急に歩きにくそう、不整地で身体が動揺するという場合は、
単純に庭が危険なのではなく、環境の変化に対して身体が対応しにくくなっている可能性もあります。
4.食堂・台所
食堂・台所では39人、4.9%でした。
キッチンマット、濡れた床、床に置いた物、狭い動線、踏み台などに注意が必要です。
特に注意したいのが踏み台です。
「ちょっと上の棚から物を取るだけ」でも、踏み台の上では足場が不安定になります。
長時間立っていることが難しい、横移動でバランスを崩す、といった様子がないかをチェックしてみてください。
高齢者の場合、バランスを崩したときに姿勢を立て直す能力が低下していることもあります。
できるだけ、踏み台に乗らなくても取れる場所に日用品を置くことも転倒予防になります。
5.居間
居間は29人、3.6%でした。
「リビングなら安全そう」と思うかもしれません。
しかし、テーブル、椅子、ソファ、カーペット、コード、床に置いた荷物などがあります。
さらに、理学療法士として注目したいのが、ソファや椅子からの立ち上がりです。
転倒というと「歩いている最中」を想像しがちですが、「座る→立つ→歩く」という動作の途中でもバランスを崩します。
「最近、椅子から立つときに何かにつかまるようになった」という変化があれば、一度注意して見てみましょう。
6.廊下
廊下は11人、1.4%でした。
数字だけを見ると、階段などより少なく見えます。
しかし、ここで注意したいのは、廊下そのものが危険というより、
「歩く場所」だからこそ身体の変化が表れやすいということです。
- 歩幅が小さくなった
- 足を引きずる
- 足先が上がらない
- 左右にふらつく
廊下を歩いているところを家族が少し観察してみるだけでも、以前との違いに気づけるかもしれません。
7.玄関・勝手口
玄関・勝手口は11人、1.4%でした。
ただし、数字が低いから「安全」という意味ではありません。
玄関には、上がり框の段差、靴の脱ぎ履き、屋内外の床面の変化、雨で濡れた床、荷物などがあります。
特に気をつけたいのが、靴を履く・脱ぐ動作です。
靴を履くために片脚立ちになったり、前かがみになったりすると、歩いているときとは違うバランス能力が必要になります。
玄関では「歩けるか」だけでなく、「靴を安全に脱ぎ履きできるか」まで確認しましょう。
8.寝室・ベッド周辺
ベッド・布団の周辺も、高齢者の転倒が起こる場所として消費者庁が挙げています。
特に注意したいのが、「寝る→起きる→立つ→歩く」という一連の動作です。
夜間であれば、部屋が暗い、寝起きで身体が動きにくい、急いでいる、足元に物がある、などが重なります。
「歩き始めてから」ではなく、ベッドから立ち上がる瞬間から転倒予防が始まると考えてみてください。
9.トイレまでの動線
トイレそのものだけでなく、トイレまでの移動にも注目してください。
特に夜間は、「トイレに行きたい→急いで立つ→暗い中を歩く」という状況になりやすくなります。
- 足元を照らす
- ベッド周囲を整理する
- 通路に物を置かない
- 必要に応じて手すりを検討する
消費者庁も、夜間のトイレなどで起き上がる際には、慎重に動作するよう注意喚起しています。
10.「どこでも」転ぶ可能性がある
最後は少し変わった10個目です。
高齢者の転倒は、「危険な場所」だけで起こるわけではありません。
これが理学療法士として一番伝えたいことです。
例えば、何もない廊下で転んだとします。
「廊下に危険な物はなかったから、原因が分からない」ではありません。
- 足が上がりにくくなっていた
- 歩幅が小さくなっていた
- バランス能力が低下していた
- 疲労していた
- 急いでいた
- 病気や薬の影響があった
つまり、「転びやすい場所を覚える」だけでは転倒予防として不十分です。
理学療法士が見る「転倒の3つの原因」
ここまで読んで、「結局、家のどこを直せばいいの?」と思った方もいるかもしれません。
そこで、理学療法士の視点として覚えておいてほしいのが、環境×身体機能×動作です。


| 視点 | 見るもの |
|---|---|
| 環境 | 段差、床、照明、コード、家具など |
| 身体機能 | 筋力、バランス、柔軟性、視覚など |
| 動作 | 立ち上がり、歩行、階段、浴槽またぎ、靴の脱ぎ履きなど |
例えば玄関で転んだとしても、「段差があった」だけではありません。
段差をまたぐだけの足の上がりがなかったのかもしれない。
片脚で支えるバランス能力が低下していたのかもしれない。
靴を履くために前かがみになってバランスを崩したのかもしれない。
だからこそ、転倒したときは、「どこで転んだ?」だけでなく、「何をしていて、なぜ転んだ?」まで考えてみてください。
今日からできる「家族の転倒チェックポイント」
最後に、家族が確認しやすいポイントをまとめます。
- 足が段差に引っかかっていないか
- 手すりに強く頼るようになっていないか
- 一段ずつしか上れなくなっていないか
- 浴槽をまたぐときにふらつかないか
- 足を十分に上げられているか
- 床が滑りやすくなっていないか
- 靴の脱ぎ履きでふらつかないか
- 段差を安全に越えられるか
- 手すりが必要ではないか
- ベッドから安全に立てるか
- 夜間の動線に物がないか
- 足元が暗くないか
- 歩き方が以前と変わっていないか
- 足を引きずっていないか
- コードや物が動線にないか
この記事は一般的な情報です。
「最近、よくつまずく」「歩き方が変わった」「立ち上がるときにふらつく」といった変化があれば、
年齢だから仕方ないと決めつけず、医師や理学療法士などの専門職に相談することも検討してください。
よくある質問
高齢者が自宅で一番転びやすい場所はどこですか?
消費者庁の65歳以上800人を対象とした調査では、
「けがをした・けがをしそうになった」場所として階段が最も多く、72人(9.0%)でした。
ただし、この調査は転倒だけを対象にしたものではありません。
浴室はなぜ転びやすいのですか?
濡れた床や浴槽をまたぐ動作など、滑りやすい環境に加えて、
片脚で身体を支える・足を持ち上げるといった動作が必要になるためです。
家の段差を全部なくした方がいいですか?
必ずしもすべての段差をなくす必要があるわけではありません。
本人の身体機能や生活動線を確認し、安全に移動できる方法を考えることが重要です。
転倒が増えたら何を確認すればいいですか?
まずは「どこで転んだか」だけでなく、「何をしていて、なぜ転んだのか」を確認してみてください。
歩き方や立ち上がりなど、以前との身体機能の変化にも注目しましょう。
まとめ
消費者庁の調査では、高齢者が自宅で「けがをした・けがをしそうになった」場所として、
階段、風呂場・脱衣所・洗面所・トイレ、庭・ベランダ・駐車場などが多く挙げられています。
ただし、転倒予防で大切なのは、「危険な場所を覚えること」ではありません。
その場所で、何をしていたのか。
身体はどう動いていたのか。
なぜバランスを崩したのか。
ここまで考えることです。
理学療法士は、転倒した場所だけではなく、環境・身体機能・動作を合わせて考えます。
家族に変化があれば、一度専門職に相談することも検討してください。








